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土岐麻子の志向とルーツに触れるスペシャルワンマン、同級生・和田唱とのセッション&トークも実現した一夜をレポート

2024.11.13

土岐麻子 SPECIAL LIVE STANDARDS & BEST ~Peppermint Sunday~
2024.11.3 恵比寿The Garden Hall

ソロデビュー20周年イヤーとなった2024年、ビルボードツアーやベストアルバムのリリース、各地でのイベント出演など精力的に動いてきた土岐麻子が、自身お気に入りの会場だというThe Garden Hallにて開催したワンマンライブ『SPECIAL LIVE STANDARDS & BEST ~Peppermint Sunday~』。土岐のキャリア、そして音楽的志向と遍歴を振り返ると、ジャズスタンダートを歌う作品でソロデビューした事実からも分かる通り、いわゆるポップスのフィールドだけでは語り切ることができない。そういう意味でも、この日のワンマンは土岐のアーティスト性とこれまでの歩みをありのままに提示する内容となった。

バンドの編成は土岐に加え、ホーン・田中邦和、ピアノ・ハタヤテツヤのみというミニマムなもの。少ない音数ながら一音一音が研ぎ澄まされた「My Favorite Things」のイントロが奏でられる中、歩みでた土岐に拍手が送られる。少しエアリーな質感のあるメロウな歌声を、メロディラインの上にそっと置いていくような歌唱。しっとりとした大人の魅力の中にどこか可憐さも入り混じる、唯一無二の歌声だ。続く「NEON FISH」では跳ね気味の歌とピアノでアクセントを付け、リズム楽器不在ながら自在にグルーヴを操っていく。

ベスト盤のツアーを終えたこのタイミングで、ジャズスタンダートやカバー曲を歌ってきた側面も振り返りたい、とライブの趣旨を説明した後、キャリアの中でも大きな出来事であったというコロナ禍に生まれた曲として紹介されたのは、微睡むようなチルな調べが美しく、時折エモーショナルな表情も覗かせる「ソルレム」。先ほどの「NEON FISH」と同様、2021年のアルバム『Twilight』収録曲である。キャリアを通しての代表曲はツアーで演奏したから、という理由もあると思うが、この2曲や5曲目に披露した新曲の「Lonely Ghost」などセットリストに新しめの曲が多かった事実は、現在の彼女の充実ぶりを伝えると同時に、これからへの期待をも膨らませてくれた。

 

「Singin’ In The Rain」を陽気でリズミカルな演奏で届けた後は、こちらの身体に直接作用してくるご機嫌なシャッフル感と、間断なく速弾きを続けるピアノ演奏にも沸いた「Just One Of Those Things」とジャズナンバーを連打。そして「この方は本当に長い友達ですね」と前置いてから、同じ小学校に通っていて共に絵画クラブに所属していたものの、向こうはそのことを全く覚えていなかったというエピソードのおまけ付きで、「Cheek To Cheek」のイントロに乗り登場したのはTRICERATOPSの和田唱。笑顔でハイタッチを交わしてからのハモリながらのデュエットはとてもスタイリッシュで洒落ている。少し鼻にかかった和田の歌声とジャジーな演奏との相性も予想以上に良い。

ここからしばらくは同級生同士の「土岐さん」と「和田くん」によって軽妙に展開されるトークを楽しみながらの時間に。和田についての土岐の一番の思い出は、小学校1年の時に貼り出されていた和田の絵が、月とロケットの描かれた宇宙の絵だったことで、その後TRICERATOPSのデビュー作に「ロケットに乗って」が収録されたことで色々と腑に落ちたのだそう。そんなエピソードに続いては歌詞に宇宙船が登場する「Destination Moon」を、ふたりが好きだというビヴァリー・ケニーのバージョンで披露。数日前に渋谷で買ったばかりだという和田のギターが生み出す、丸みを帯びたニュアンス豊かな音色に乗せ、土岐は自在に舞うような歌を響かせた。

 

さらには12年前に一緒にレコーディングした2曲を、とマイケル・ジャクソンのカバー「HUMAN NATURE」と和田が土岐へ提供した「Perfect You」を、土岐がシェイカーを振りながらふたりのみで演奏。ボサノバ調で歯切れの良いカッティングとキャッチーなコーラスが場内の盛り上がりを一層押し上げていった。和田を送り出した後は、最近になってどハマりして文献なども読み漁ったというザ・ビートルズの「ノルウェーの森」をカバーする一幕もあった。ケルト音楽を思わせるホーンによる浮遊感とダイナミックなピアノで鮮明なコントラストを生み出した後は、ラテンジャズ調のアッパーなノリとスキャットが楽しい「ザンジバル」。アウトロからそのまま繋いだ「It Don’t Mean A Thing」が本編のラストナンバーで、場内からのクラップに乗ってゆったりとスウィングするサウンドを和やかに歌い鳴らした。

アンコールではサックス奏者である父、故・土岐英史氏が作った楽曲に彼女が歌詞をつけたという「Lady Traveller」から。フォーキーでエバーグリーンな歌声を堪能した後は、往年のミュージカル曲でバラード調の「Little Girl Blue」の安らかな歌と音色が染み渡ったところで、ライブはいよいよ大詰めだ。オーディエンスへあらためて感謝を伝えてから、「忘れたくないものは守りながら、挑戦してみたいものも大切に、音楽を続けていきたいなと思います」と晴々と語る土岐。そしてまだまだ満足できない!という曲で終わりたいのだと、再び呼び込まれた和田とともに、総立ちとなった客席へ向けザ・ローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No) Satisfaction」を投下した。もともとキース・リチャーズはこの曲にホーンを入れたかったという逸話もあるだけに、ジャズとロックの面々が織りなすコシの効いたサウンドは最高! 「SPECIAL LIVE」の名に相応しく華やかにライブは締めくくられた。

20周年イヤーもいよいよ大詰め。年末には3年ぶりのアルバム『Lonely Ghost』のリリースを、そして年明けには東名阪ツアーも控えた土岐。父親から受け継いだDNAや小学校時代の交友まで引っくるめて届けてくれた、自身を構成してきた音楽と感性の魅力は、彼女がこの先生み出していく音楽がますます豊かなものとなっていくことを予感させるものであった。

取材・文=風間大洋

1. My Favorite Things
2. NEON FISH
3. ソルレム
4. 夕暮れよ
5. Lonely Ghost
6. Singin’ In The Rain
7. Just One Of Those Things
8. Cheek To Cheek
9. Destination Moon
10. HUMAN NATURE
11. Perfect You
12. ノルウェーの森
13. ザンジバル
14. It Don’t Mean A Thing
[ENCORE]
15. Lady Traveler
16. Little Girl Blue
17. (I Can’t Get No) Satisfaction

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