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ROCKIN’ QUARTET、数原龍友、SCANDALらが登場した音楽とビール漬けの2日間 『麦ノ秋音楽祭2023 #Seeds』を振り返る

2023.11.28

初開催から1年にして開催自体は3回目という、他に類を見ない年二回開催のフェスである『麦ノ秋音楽祭』に行ってきた。埼玉のクラフトビールメーカー・COEDOの醸造所を舞台に行われるキャンプ型のフェスとして、環境ごとのんびり音楽を楽しみたい層やファミリー層、そしてビールに目がない我々から熱い視線を浴びているイベントであり、筆者は初回から通っている。

今回は『麦ノ秋音楽祭2023 #Seeds』と銘打たれているとおり“種蒔き”の回。比喩的な意味ではなく、実際にビールの原料となる大麦の種が参加者に配られ、会場脇の畑に種まきすることができる。で、約半年後の開催時に収穫したそれを使って作ったビールを、さらに半年後の開催で飲もうという長期スパンの試みがなされているのだ。昨秋の初回開催時にも種を撒き、今年5月に「黄金の麦畑で乾杯!」という計画だったそうなのだが、今年は春から記録的に気温が高かったことから麦の生育が早く、第2回開催直前に収穫せざるを得なくなった。そういう経緯があって、今回はあらためての挑戦。2度目の種蒔き回なのだ。

そういう背景もあるため、出演者も参加者もリピーターが多め。どう楽しむべきフェスなのかが浸透してきたことに加え、回を追うごとにフードやワークショップ等のエリアが充実してきており、会場に到着するとこれまで以上にホーム感のある空間ができあがっていた。筆者は3歳の娘を含む家族で参加。まずはテントを張ってスタンバイしつつ背徳の朝ビールをキメる。前週までとは打って変わって気温はかなり低めだが、やはり美味いものは美味い。ライブエリアが開場すると、みな思い思いの場所にシートやイスを設置してビールやフードの出店に並んだり、ステージ前の立ち見エリアに陣取ったり。子ども連れや犬を連れての参加者もたくさんいるので、フェス会場というよりピクニックのメッカみたいな、なんとも平和な光景が広がっていく。

メインステージ・エールステージの開幕を飾ったのはandropだった。このフェスには初登場だが、ここ最近は同じチームが制作している『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』に続けて出演しているし、近作のソウルやR&Bテイストを織り交ぜて横に揺らしていくスタイルとアコースティック編成のライブの相乗効果もあって、この場との相性は抜群。「Lonely」では歌詞に“東松山”や“秋”といったワードを盛り込んで盛り上げ、ヒット曲のバラードソング「Hikari」から、「Black Coffee」や「Toast」といった直近の作品まで織り交ぜ、ピースな空間にすっと溶け込む柔らかな音像を届けてくれた。

お次は皆勤賞の村松拓。過去2回ともに登場した「とまとくらぶ」の相方・山田将司こそ不在ながら、勝手知ったるフェスだけにリラックスした雰囲気で登場し、「この時間はまだ起きてない」なんて言葉とは裏腹に、たくましい歌声を響かせていく。ナッシングスの「Diachronic」「Perfect Sound」を弾き語りで披露した後はペダルスティール奏者の宮下広輔とドラマー・伊地知潔というPHONO TONES組を呼び込んでのトリオ編成に。「このメンツでしかやらないだろうなというカバー」という紹介からのASIAN KUNG-FU GENERATION「君という花」カバーは、ひときわ大きな盛り上がりを呼んだ。

3組目は初登場の蓮沼執太と、前回に引き続きの登場となった地元・川越出身のタブラ奏者・U-Zhaanによるライブ。インストの「Good News」から入ったあとは、蓮沼のフラットなテンションの歌声からトーキングブルーズ的な歌唱までこなす多彩な引き出しに、タブラだけでなくタンバリンやトランペットでも卓越したスキルをみせるU-Zhaanの演奏、そして高速変拍子の「七曜日」やドラマ『大岡越前』のテーマといった選曲という、唯一感の高いパフォーマンスが続く。蓮沼の母がこのあと登場する数原龍友のファン、U-Zhaanの友人がフードエリアに焼き鳥の出店をしている、などなどトーク面でも大いに和ませてくれた。

数原龍友は初登場。というか、ソロでのフェス出演自体がかなりレアな上、普段はなかなかロックフェス等ではお目にかかれないGENERATIONSのボーカリストである。そんな驚きのブッキングが実現したのは、数原がどっぷりキャンプにハマっており、このフェスでは初回からコラボしているYouTubeチャンネル『Wild Stock』にも度々出演している上、前回5月にもお忍びで遊びにきており、是非このフェスで歌ってみたいという本人の希望もあったから。パーカッションとギターを伴ってのライブは自身のソロ曲のほかにGENERATIONS「Love You More」、先輩EXILEの「Together」に「Choo Choo TRAIN」、国民的アニソン「ウィーアー!」まで飛び出すサービス精神の高いもので、抜群の歌唱力を誇りつつ親密さも感じさせる歌声でたっぷりと魅了してくれた。

早くも初日も大詰め。トリを飾ったのはストレイテナーのホリエアツシだ。同世代の仲良しミュージシャンたちが常連化しているためか意外に感じるのだが、実はこれが初登場である。アコギ弾き語りで「彩雲」からライブを始めると、野外&弾き語りに愛称抜群のコールドプレイのカバー曲「Yellow」や新曲の「インビジブル」などを伸びやかに歌っていく。後半に村松拓を呼び込んだ際には、ほぼほぼただの内輪ノリなトークとモノマネまで繰り出して爆笑をかっさらい、浜田省吾「悲しみは雪のように」をデュエット(モノマネ込み)。ラストの「Melodic Storm」では弾むギターに乗って会場中が飛び跳ね、ともに歌いながらのフィニッシュとなった。

この時点で時刻はまだ18:00前。時期的にもう暗くなってはいるが、キャンプ組にとって夜はまだまだこれから、ということで、キャンパー組へ向けた恒例の「焚き火ライブ」が始まった。今回登場したのはCaravan。キャンプ系のフェスと究極レベルに相性の良いオーガニックなサウンドと豊かなロー&ミドルの響きを持った歌声を持つ彼のライブを楽しめるだけでなく、この日はライブペインティングパフォーマー・近藤康平との共演が実現。端的に言うと、Caravanの歌が始まった時点では白紙のキャンバスに、歌詞やサウンドから得たインスピレーションで即興の絵を描いていくというもので、手元に置かれたカメラの映像が正面のスクリーンにリアルタイムで映され、絵の完成までのステップや、どんな画材を用いてどんな手つきで描くのかまでも克明に見ることができた。Caravanと近藤も互いに響き合うものを感じたようで、本編のライブとほぼ変わらない長時間にわたって楽しませてくれた。

一夜明け、2日目。気温はかなり低く曇り空だが、風が弱まったので案外快適な気候である。この日のトップバッター・SCANDALは、ベースのTOMOMIが前日の数原と同様に『Wild Stock』出演者として初回から参加していることから、バンドでも出演を待望されていた存在。これまでワンマンの1コーナー等でしか披露してこなかったというアコースティック編成でのライブは、場内から送られるクラップや全員が歌える特性ともマッチした、華はありつつも親近感を覚えるもので、ポップなメロにブルースが香る「CANDY」やMAMIの弾き語りによる「声」などを演奏。「初めて観た人にもまた会えますように」とラストは「one more time」で締めくくった。

2組目にはCaravanが登場。ソロ弾き語りのスタイルながらルーパーを駆使することで音に厚みをもたらし、アイリッシュな装いのインストナンバー「Well Come」からライブを始める。サザンロック調の「Trippin’ Life」を場内のクラップに乗せて届けたあと、しばしギターを即興風につまびいた流れでそのままお馴染みの「ハミングバード」へ繋げると、会場からは「ワッ」と喜びの声が上がった。前夜の焚き火ライブとは全く被りのないセットリストも嬉しい、「サンティアゴの道」までの全7曲は、おだやかで気ままな、それでいてそっと背中を推すような歌にたっぷりと浸れる時間であった。

過去2回ともにソロとバンドでそれぞれトリを務めている上、地元も会場からほど近く、主催のCOEDOとも懇意という、このフェスの象徴的存在・大木伸夫(ACIDMAN)が昼下がりのステージに登場。ミュートしながらの小刻みなカッティングに乗せた「FREESTAR」からはじめ、代表曲のひとつ「赤橙」へ繋ぐ。大木といえば宇宙、ということでもちろん夜空がよく似合うのだが、弾き語りスタイルや曲のコード感はこのくらいの時間帯にもとてもよく合う。「あんまり最近やってなかった」という紹介からのエモーショナルな「季節の灯」にも大いに沸き、最後は「Your Song」でピースフルな光景を生み出した。

4組目は、このフェスのラインナップでダントツにミステリアスな……というかほとんど誰も知らなかったはずの存在・Name the Night。それもそのはず、この日まで数曲がSNSにアップされている以外、一切正体不明のバンドの初ライブなのだ。定刻を迎えステージに現れたそのメンバーは、ROCK’A’TRENCHの山森大輔&畠山拓也、アジカンの伊地知潔、ベーシスト・MIYAという面々だった。カントリー風味の「infanty」からネオソウル調のモダンな「Marginal」で、いきなりかなりの振り幅を持つところを提示。エレクトリックのバンド編成が生きるロック調の「COASTLINE」、アンセム感のあるダンスナンバー「Strange World」など魅力的な楽曲を次々に繰り出し、「いろんな景色を描きにいけると思ってる」と力強い宣言も残してくれた。

いよいよ『麦ノ秋音楽祭2023 #Seeds』もオーラス。このフェス初登場、というかフェス出演自体がまだ3回目ながら、顔ぶれはものすごく常連感のあるROCKIN’ QUARTETの時間である。シンガー陣の内澤崇仁、村松拓、ホリエアツシ、大木伸夫に、前日からトークメインのラガーステージで大活躍だったヴァイオリニスト・NAOTOが率いる弦楽四重奏と、鍵盤・呉服隆一という面々で送るロックライブは、なんと1時間半近いロングセット。この企画の何たるかを一発で知らしめる村松&ホリエのコラボ版「Out of Control」にはじまり、じっくりと聴かせる「シナプスの砂浜」あたりも挟みつつ、今度は村松&内澤のコラボで「RainMan」へ。という具合に各バンドの人気曲がROCKIN’ QUARTETでしか観られないアレンジで次々に繰り出されていく。

滑らかかつとんでもない速弾きフレーズで度肝を抜いたNAOTOのオリジナル曲「REMEMBER」のあとは、再び登場したホリエアツシの「シーグラス」が一体感を増幅させ、個人的にはこのバージョンで音源が欲しいくらいの完成度を誇る「イノセント」も披露。そして最後にステージに上がったボーカリストは、ある意味これで同フェス3連続のトリとなる大木伸夫。「ALMA」「世界が終わる夜」という、ACIDMANの表現し続ける思想と死生感を象徴する名バラードが秋の夜空に染み込んでいった。低気温の野外という決してストリングス演奏向きではない環境で、見事な演奏を続けたカルテットメンバーにも最大級の賛辞を贈りたい。

そんな名シーンだらけのライブだけでなく、空間そのものの居心地がよく、のんびり楽しく過ごすことができるのも、このフェスの醍醐味だろう。ラガーステージで行われた料理教室やトークセッション、子どもたちが振付師/ダンサーのMISAKIに「ジャンボリミッキー」のレクチャーを受け、その後メインステージで披露もできるキッズダンス教室。さらに併設のビール工場を社会科見学的に覗き見ることのできるツアー、モルックやサッカーダーツといったスポーツから水彩画などのアートまで揃った体験型のコーナーなどなど、さまざまな年代・属性が楽しめるコンテンツが揃っており、しかも回を追うごとに洗練されていっている。

我が家の妻と娘はといえば、ライブそっちのけで体験コーナーにどんどん参加して、しっかり楽しんでくれていた。キャンプ参加であれば、小さい子どもがいてもテントでお昼寝できるので安心だし、車なら都心から道が空いていれば約1時間半、電車なら順調にいけば1時間強というアクセス面から見ても、首都圏在住の音楽好き・ビール好きの休日の選択肢として、『麦ノ秋音楽祭』はいま以上に浸透していって良いフェスだと思う(人口密度が高くなりすぎない程度に……)。

すでに発表となっている来年5月の開催のサブタイトルは「#Hervest」。もちろん、この日蒔かれた種の収穫時期である。黄金色の会場でのフェス開催と念願の「黄金の麦畑で乾杯!」を、そしてその麦から造ったビールを味わう日へ──豊かな実りのサイクルはどんどん続いていく。

取材・文=風間大洋 撮影=AZUSA TAKADA、Yuri Suzuki(蓮沼執太&Uzhaan、Caravan)

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