andropの精緻で多彩な音世界を弦楽四重奏がリビルド 『ROCKIN’ QUARTET 第6章』総括レポ
2023.08.14
※以下のテキストでは演奏曲目を記載しています。アーカイヴ配信未視聴の方はご注意ください。
2017年に始まった、ヴァイオリニストのNAOTO率いる弦楽四重奏とロックバンドのボーカリストによる共演『ROCKIN’ QUARTET』シリーズも気付けば”第6章”。2023年7月19日から7月30日にわたり、東京、大阪、そして横浜のビルボードライブにてツアーが行われた。今回のボーカリストはandropの内澤崇仁。これまでの5組はだいたい同世代・同キャリアであり、リスナーも被っている部分があったと思うが、andropはその1つ2つ下の世代といった印象。音楽性的にも幅広いバンドだけにこれまでにないアプローチも期待でき、『ROCKIN’ QUARTET』が新たな扉を開こうとしていることを象徴する回とも言えるだろう。果たしてNAOTO QUARTETと内澤の出会いはどのような音楽と空間を生み出したのか。筆者は初日の東京とファイナルの横浜を観た。
NAOTO QUARTETのオリジナル曲「Explorer」、1st/2ndで入れ替わりの「Hanabi」と「Hikari」、このシリーズでは恒例のカバー曲を含めると、今回演奏された楽曲は全13曲。ポストロックやマスロックの系譜にある複雑で凝った構成あり、2010年代を象徴する4つ打ちギターロックあり、王道のバラードソングあり。さらには近年のandropに顕著な、R&Bやネオソウル的に横へ揺らしていくグルーヴを持った曲まで、セットリスト内での振れ幅は過去最大だろう。なお、その中でカバー曲に選ばれたのはACIDMANの「赤橙」だった。このシリーズの初回でも本家によって歌われたこの曲、そしてACIDMANの存在は、内澤が地元・青森にいる頃から愛聴し、上京後にはACIDMANと同じライブハウスへ出演していたり、コードの使い方等でも影響を与えたというエピソードが表す通り、言わばandropの多彩な音楽性の核深部とも言える。時を経て、この『ROCKIN’ QUARTET』の歴代出演者に両者が名を連ね、そのステージ上で内澤がACIDMANをカバーするのだから、ロックシーンと人の歴史に思いを馳せずにはいられない。
東京公演での緊張感をはらんだスリリングな歌と演奏も、すっかり気心知れた仲というくだけた雰囲気で弄りあう横浜公演での光景も、どちらも素晴らしかった。ライブではまず初っ端の「Explorer」から度肝を抜かれる。NAOTOが指板をタップして刻むビートから幕を開け、ドラムンベースか何かのような手数の多いそのビートだけでなく、同時に旋律まで奏でるアクロバティックなプレイをやってのける。向井航の弾くチェロも休符多めのフレーズを弾いていたりと、全体の跳ね感、そしてライブ感がすごい。”弦楽四重奏”と聞いて思い浮かべる音像を完全に超越したサウンドが雄弁に伝える。これが『ROCKIN’ QUARTET』だと。
そこから内澤が登場してはじめに演奏されるのが「Colorful」。歌い出しはアカペラで、そこへ四重奏が加わっていくのだが、歌メロに寄り添った伴奏という関係ではなく、独立して存在する両者が結果として一つの音像を形作るような印象。コードそのものが不穏な響きを持ち、途中で拍子が変わったりもするシリアスで複雑な曲だが、サビで一気にメロディアスに展開する開放感がたまらない。続く「Tonbi」はラップのように言葉を詰め込みつつ、要所で乱高下するメロディが印象的。透明度の高いファルセットボイスは凛と空気を振るわせる。どうやってやっているのか、弦楽器しかいないはずなのにドラムのリムショットみたいな音まで聴こえる。冒頭2曲でミステリアスな、どこか孤高の雰囲気を味わせた後は、陽性で爽快感あふれる「Yeah! Yeah! Yeah!」が来た。4つ打ちでどんどん推進するのでさらっと聴けてしまうが、BPMが速い上にそこへ速弾きが乗っかっているので実はテクニカル。内澤の歌う主旋律にNAOTOがハモりを加えるシーンも見どころであった。
原曲ではウッドベースが印象的でフィドルの入った「Kitakaze san」、アコギ弾き語りを基調にしたハートウォーミングな「RainMan」では語りかけるような優しい調子の歌唱が光る。ハイチェアにそっと腰掛け、何気ない佇まいで歌われる内澤の歌は恐ろしくピッチが正確で、ことさらに声を張り上げたりすることはないのによく通る。すぐ側で歌われているようにも遠くからスッと響いてくるようにも、曲によって様々な表情を感じられる歌声だ。「今まで(このシリーズでは)ゴリゴリのロックの人が多かったけど、andropは根底にロックはありつつ、色々な音楽のジャンルを取り入れて発信しているのが一つの良さ」とNAOTOが語り、その中でもR&Bっぽさをピアノを入れることで演出した曲をやる、という紹介から「Lonely」へ。レイドバック気味にゆったりと間をとりながら心地よく揺らしていく演奏に乗せ、大きくジェスチャーを入れながら伸び伸びと歌う内澤。モダンでクールな印象の強い曲が、どこかオールディーズなテイストを帯びる。『ROCKIN’ QUARTET』は原曲に忠実に、完全再現を狙ったアレンジが施されているけれど、楽器が違うぶんで印象自体はガラッと変わったりするのが本当に楽しい。
この季節にぴったりな「SummerDay」を清涼感とともに届けた後は、前述したACIDMANのカバー曲「赤橙」。カルテットのみの演奏だったVol.1(大木が出演)からピアノ入りのアレンジへと生まれ変わったこの曲を、少しブレスを入れながら抑揚多めで内澤が歌う様子からは、原曲へのリスペクトと理解度の高さが感じられた。1stステージの「Hanabi」と2ndステージ「Hikari」はストレートなバラードソング。これまでの『ROCKIN’ QUARTET』の歴史の中で、こういったストリング映えが想像しやすい曲というのは、実はそう多くなかった。ただしandropに関して言えばそこも大きな魅力の一つ。メロディと弦楽器のフレーズがこれでもかとドラマ性を引き立たせ合い、感動的な音空間を作り上げていった。本編ラストの「End roll」もスローにしっとりと。<あなたに会えた日 今日はもう忘れない>という一節が、じんわりとしたあたたかさで場内を包む。アンコールでは「SuperCar」の跳ねたリズムと、場内が一体となって鳴らすクラップがとても晴れやかで、コール&レスポンスも交えながらのフィニッシュとなった。
「バンドに戻ったらすごくレベルアップできそう」と話していたように、内澤にとって、普段は別のフィールドで活躍するトップランナーたちと出会い、ともに音を奏でたこの『ROCKIN’ QUARTET』の経験は大きなものとなっただろう。同時に、『ROCKIN’ QUARTET』シリーズにとっても、新たな世代、新たな音楽性のボーカリストを招いたことで、今後の人選なども含め、大きく可能性が広がった回となった。今秋には2本のフェス出演がすでに発表済み(どちらも内澤は出演!)の『ROCKIN’ QUARTET』からますます目が離せない。
文=風間大洋 撮影=AZUSA TAKADA(東京公演)
ROCKIN’ QUARTET第6章 内澤崇仁(androp)× NAOTO QUARTET
2023.7.19 Billboard Live TOKYO
NAOTO(1st Violin)/ 柳原有弥(2nd Violin)/ 大谷舞(Viola)/ 向井航(Cello)/ 呉服隆一(Piano)
配信日時:8.12(土)20:00 START
アーカイブ期間:8.20(日)23:59まで
配信チケット:¥3,000-
販売URL https://eplus.jp/rockinquartet/st/
セットリスト
1. Explorer
2. Colorful
3. Tonbi
4. Yeah! Yeah! Yeah!
5. Kitakaze san
6. RainMan
7. Lonely
8. SummerDay
9. 赤橙(ACIDMANカバー)
10. Hanabi/Hikari
11. Endroll
[ENCORE]
12. SuperCar