LIVE LOVERS

コロナ禍の<コラム>2020年に育まれたエンタメの形、”配信ライブ”――その歩みと到達点、課題を考える

2020.12.31

もういい加減この前置きを使うのもうんざりしてきたが、新型コロナウィルスによるパンデミックと、それによる各業界への影響に収束の兆しは見えてこない。音楽界隈でも先日、東西の年末メガフェス『COUNTDOWN JAPAN』『RADIO CRAZY』の中止・延期が発表されたほか、年末から年明けにかけて予定されていた各アーティストのワンマン公演も中止や延期の報が届いている。

最初に大規模イベントに対する自粛要請が出たのが2月の終わりだったので、音楽の鳴る場所に人が集まるという光景が当たり前じゃなくなってから、もう間もなく1年が経とうとしている。長いような、あっという間だったような気もするこの間、当事者たちは大きな打撃を受けつつも、現状に対してただ悲観したり憤ったり、あるいはコロナ禍が過ぎ去るのを黙って待っていたわけではなく、この状況でなければ、2020年でなければ生まれなかったであろう試みや作品を残してくれた。中でも、「ライブを配信する」こと、さらに「そこで収益をあげる」ことに関しては、多くのアーティストがトライし、少しでも満足度やバリューの高い形態を、そして自らの表現に合うやり方を模索し続けていた。

ライブを映像に収めること自体は、これまでも大概のアーティストがやっていたが、その多くは映像作品や特典映像、MVなどのための記録であったし、ライブ配信の技術も仕組みもあるにはあったが、「ツアーファイナルをサービスとして同時配信する」といった限定的な用いられ方であり、それ自体でマネタイズする意識はほとんどなかった。コロナ以降も、2020年3月~5月あたりまではその延長線上のやり方が主流で、ライブを行うはずだった会場等で無観客ライブを行い、YouTubeなどで無料(もしくは投げ銭あり)の配信をするというもの。3月1日にBAD HOPが横浜アリーナで開催したのをはじめ、筆者の関わりが深いところでいうと、3月8日の『ROCKIN’ QUARTET』や、3月11日にACIDMANが福島から配信したライブも誰でも観られる形態で行われていた。

ACIDMAN・大木伸夫 撮影=柴田恵理(『THE SOLAR BUDOKAN 2020』より)

ACIDMAN・大木伸夫 撮影=柴田恵理(『THE SOLAR BUDOKAN 2020』より)

これは、有料で配信をするためのインフラが整っていないこと以上に、楽しみにしていたライブが急遽無くなってしまったファンへ向けた、ある種のサービスの意味合いが強かったと思う。加えて、ライブがキャンセルとなることで突然収益を断たれてしまい、しかも当初は感染拡大の槍玉に上がってしまったライブハウスへの支援の意図もあっただろう。しかし、自体が長期化すればするほど、アーティスト自身や周囲の現場スタッフがどうやって収益を上げるのか?というシビアな問題が浮かび上がってくる。いわば、エンタテインメント、ショービジネスそのものの危機に直面したのだ。

そこで次々に興ったのが、有料チケット制のライブ・ストリーミング・サービス。3月時点から提供開始したZAIKOを皮切りに、PIA LIVE STREAM、イープラス Streaming+と、各チケットプレイガイドが参画したほか、LINEやソニー・ミュージックなどもサービスを開始した。また、配信ライブの制作から情報発信を担うポータルサイト機能までを有したプロジェクト・LIVE LOVERSなども始動するなど、リアルのライブのノウハウを持った人や会社が立ち上がっていく。

そうした状況の中、6月にはサザンオールスターズが有料のライブ配信を行い、トータルで実に約18万人が購入するという出来事が話題を呼んだ。PCなどから複数人での観覧も可能なことを考えると、数十万人が一つのライブを観るというリアルライブでは実現困難な状況を作り出したのである。また、福島・猪苗代湖畔で収録されたThe BONEZの復活ライブも、無観客を逆手に取り景色や日光までも演出の一部としていた点、必ずしも生でなくとも魅力的なライブが成立するという点で、驚きとともに受け入れられた。

The BONEZ 撮影=Yoshifumi Shimizu(『The BONEZ – Speak True – Documentary + Live』より)

The BONEZ 撮影=Yoshifumi Shimizu(『The BONEZ – Speak True – Documentary + Live』より)

稼動当初は不安定な部分もあった配信インフラも急ピッチで整備され、この頃になると若手からベテランまで多くのアーティストが有料配信ライブ開催に踏み切っていた。前述のACIDMANもそのひとつ。フロントマンの大木伸夫は3月に無観客ライブを行った時点から「配信のライブっていうものの可能性は、コロナ関係なくアリだな」(参照:https://livelovers.jp/list/article/147/)と、表現手段のひとつとして魅力を感じていたといい、実際に7月に行なったライブは配信であることを前提に映像演出や照明などにこだわりぬき、新たな表現の扉を開いた感があった。ただ、同時に大木が「僕はそれを楽しめたけど、でも楽しめない人も出てくるだろうなとは思います」と、アーティストによっての向き不向きについても語っていたように、やはり実際のライブと配信でのそれとでは、観る側だけでなくやる側の感覚としては全くの別物。誰もが「ライブができないなら配信で」と切り替えられたわけではない。

やはり配信ライブはリアルライブの代替には成り得ない。その要因はいくつも思いつくが、決定的なのは“場の共有”ができないことだと思う。再生しながら参加できるチャット機能や、SNSへのハッシュタグつきの投稿などで、擬似的に感動を共有することはできるものの、ライブハウスの重たいドアを開けて熱気充満するフロアに足を踏み入れる感覚や、自分の心が動いたタイミングで会場全体も盛り上がったりといった肌で感じる一体感はそこにはない。その代わり、何度もアーカイヴ試聴出来たり、アーティストの表情や手元をはっきりと視認できるというメリットはあるものの、それはよほど本腰を入れて応援しているアーティストでない限り、チケットの購入意欲に直結するトリガーにはなりづらい。そうなったときに難しいのは、複数のアーティストが出演する対バンイベントやフェスをどうオンラインで構築するのか、という点だ。

ビルボード東京(写真上)、中津川公園(写真下)など様々な会場からのライブが並んだ『THE SOLAR BUDOKAN 2020』

ビルボード東京(写真上)、中津川公園(写真下)など様々な会場からのライブが並んだ『THE SOLAR BUDOKAN 2020』

フジロックやサマソニは過去のライブ映像の配信にとどまったものの、有料配信に踏み切ったフェスもいくつかある。その中で『ビバラ!オンライン』、『THE SOLAR BUDOKAN』の2本を視聴したが、どちらも趣向を凝らした内容になっていた。ビバラは2つのステージからの配信ライブが連なり、合間にプロデューサーの鹿野淳氏やダイノジらによるトークコーナーを挟む形式。若手の割合が多めで、例年同フェスが有するショーケース的な役割も果たしていた。『THE SOLAR BUDOKAN』は事前収録と生配信、野外と屋内など、異なるシチュエーションからのライブ映像を、ほとんどインターバルを開けずに繋いでいくやり方を採り、本来の開催地である中津川からの配信も複数本交えるなどコアファンには堪らない仕掛けもあった。

しかし残念ながら、それらがリアル開催時と同等以上の盛り上がりを生むには至らなかったことは、来年以降の課題のひとつだと言える。いかに「この組み合わせなら是非観たい」というようなブッキングを実現させるか、もしくは嗅覚を研ぎ澄まし「いま観たい」アーティストを集めるか。フェスや対バンは特に、これまで以上に作り手側のセンスや手腕が問われることになりそうだ。ここ最近でいえば12月末に行われたDragon Ash×MONOEYES(転換中にはSiMが登場!)のような組み合わせは、その好例と言えるのではないだろうか。

夏から秋にかけては有料でのライブ配信は珍しいものではなくなり、同時にイベント等の収容人数の制限緩和などもあったことから、有観客のライブや、有観客+生配信のライブが徐々に増加。また、各アーティスト側はどのように“配信ライブならでは”の演出や仕掛けを施すか、どうやって価格を上回る価値を提供し、想像を超える体験を生むのか、という部分で一層知恵を絞っていった。驚くほど手の込んだステージセットや演出効果を用いて、ライブとMVが融合したようなライブを繰り広げたサカナクション、オンラインゲーム『フォートナイト』の中という仮想空間でバーチャルライブを行った米津玄師。ゆずはセトリの被りほぼなしで全5本の“ツアー”と銘打ち、母校や船上など通常ならライブ会場にならないはずの様々な場所でも演奏。それらは失われたライブ現場に想いを馳せるだけでなく、はじめて体験するエンタテインメントの形として成立していた。

彼らの試みが驚きや好奇心をもって多くの人に受け止められ、配信ライブの可能性を押し広げる一方で、そのような大掛かりでスペクタクルな配信がリスナーに驚きを与えれば与えるほど、若手やコアなジャンルのアーティストなど、大掛かりな予算を確保しづらいアーティストにとっては、「普通のライブを配信しても興味をもたれづらい」というジレンマも生まれるようになった。実際、東京で500~1000人程度のキャパシティでライブをすることの多いバンドのマネジメントが、そのくらいの活動規模だと有料配信では赤字になってしまうから難しい、と明かしてくれたこともあったし、事務所内のスタッフが新たに撮影や配信のスキルを身につけることで、なんとか少しでもコストを抑えて配信を行えるようにしているケースもあると聞く。

そういった様々な事情や状況はあるが、ライブエンタメのシーンを沈下させないためには、当分はオンライン配信という手法に頼らざるを得ないだろう。であれば、メジャー/インディーやファンコミュニティの大小を問わず、きちんと露出ができて収益を上げられる場所や仕組みの整備は急務。特に、本来であれば出会いの場として機能するような対バンイベントやフェスを、オンライン環境であっても魅力的な形で開催できるようにすること、それによって売り出し中の若手やアンダーグラウンドな音楽性を持つアーティストも活動を維持でき、ライブを披露できるようになる、そういう場が求められていると思う。

先にも述べたように、配信でライブをすることに対して積極的なアーティスト、そうでないアーティストが存在する現状が未だある。ただし、2020年も後半になるにつれ、各アーティストをインタビューするたび、「配信ライブはありかなしか」ということよりも、配信において「どう魅せるか」「どう振る舞うべきか」といった視点に立った言葉を聞く機会が多くなっていた。

やはり実際のライブと配信ライブとでは、単に観客のリアクションの有無だけでなく、使う筋力そのものが違うようだ。ストレイテナーのホリエアツシは、「配信として映像で観てもらうには、やっぱり自分なりに高めなきゃいけないところがあると思っていて」(https://spice.eplus.jp/articles/279345)とした上で、自分が幼少期にテレビで観て憧れたミュージシャンのように、映像上において“カッコいい”パフォーマンスをやれなければ、と語っていた。ライブハウスを主戦場にしていたアーティストであればあるほど、その魅力と、そこでの戦い方を熟知している。2020年は突然、“そうではない”思考と行動を求められる年となったわえで、多くのアーティストがその課題に今なお立ち向かっていたりもする。

ストレイテナー 撮影=柴田恵理(『THE SOLAR BUDOKAN 2020』より)

ストレイテナー 撮影=柴田恵理(『THE SOLAR BUDOKAN 2020』より)

そして、リアルのライブが無くなったり、開催できても発声やモッシュなどができない状況は、作品作りにも影響を及ぼすようにもなっている。特に、「フェスでどう受けるか」「集客するか」、言い換えればライブでの盛り上がりを生むことにクリエイティヴィティの多くを傾けてきた、2010年代以降に頭角を現したバンドたちにとっては、ライブのない期間やフィジカルな盛り上がりのないライブ現場という初めて経験する状況が、新たなアプローチに挑戦したり、自らの表現スタイルを見つめ直す良い機会にもなっているようだ。これは、むしろプラスに捉えても良いことではないだろうか。例えば、「盛り上がらなくても一緒に作らなくても、そこにいるだけでライブっていうものは成立する」(https://spice.eplus.jp/articles/276885)という気づきを語ってくれたLAMP IN TERRENの松本大は、コロナ禍を受け、着手していたニューアルバムの方向性をガラリと転換。結果として『FRAGILE』という傑作を世に送り出している。

この期間が明けたとき、血湧き肉躍るライブの現場が戻ってくると同時に、そうではない音楽性や音楽の楽しみ方がこれまで以上に市民権を得ることになるとすれば、それは音楽シーン全体をより活性化させ潤し、底上げすることに繋がるだろう。そうしてライブエンタメに対して下がった敷居、広がった裾野を多くの人が享受できる窓口として、今年図らずも勃興した配信ライブというカルチャーは大きな役割を果たせるはずである。

この年末もたくさんのライブがオンラインで行われる。同時に、この瞬間も各アーティストは情勢や先々の予定と睨み合いながら、現時点でできることを考え続けている。とてもとてもハードな現実には変わりないが、それを越えた先のライブシーンで見る景色や味わう感動は、絶対に2019年以前とは違ってくるはず。また、今は想像もしていないような、もっとスペクタクルだったりインタラクティブだったりする未知のライブ体験が、ひょっとしたらこの先出てくるのかもしれない。

最近テレビとかがしきりに連呼している“新時代”みたいなワードはだいぶ胡散臭いが、こうして今年を振り返ると、音楽シーンが変革期を迎え(ストリーミング・サービスの定着も重なっているし)、まさに時代が変わっていく瞬間に立ち会えているのは間違いなくて、そこは結構ワクワクできている。

文=風間大洋

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