
SHE’S&藤巻亮太がインディーズバンドと真剣2マン、『ORANGE STATION LIVE 2025』公式レポート
2025.08.08
SNSや音楽サブスクの広まりによって、誰もがより多くの情報へ、より簡単にアクセスできるようになった。結果として時代やジャンルを超越したリファレンスを持つ、新たな才能がたくさん登場した。しかし、リスナー側に目を向けるとむしろ、特定のジャンルや界隈を深く掘り下げる代わりに、その外側へは能動的にアクセスしない層が多く存在しているように映る。そんな状況を受けてか、あえて異なるファン層を持つアーティスト同士の対バンイベントが組まれるケースが、ここ数年で増えてきた。FWD生命とTOKYO FMによって昨年スタートした『ORANGE STATION LIVE』もそのひとつで、メジャーとインディーズというフィールドの異なる2組による対バンをコンセプトとしている。
以前ほど垣根は高くないとはいえ、もともと交流が深かったりフェス系イベントと親和性が高かったりしない限り、メジャーとインディーズのアーティストが顔を合わせる機会はそう多くないから、そのお膳立てがされるというのは演者側にとって新たな交流と刺激を生む良い機会となり、リスナーにとっても未知なる音楽や未来の“推し”候補との出会いの場となり得る、魅力的なライブシリーズだ。2年目となる今年は渋谷・duo MUSIC EXCHANGEを舞台に藤巻亮太×POOLS、SHE’S×ヨイズという2本の2マンが組まれた。インディ代表はともに事前オーディションによって選ばれた精鋭である。
6月20日(金)に行われた初日。開場中・転換中は同イベントのアンバサダーでもある俳優/ラジオパーソナリティの別府由来がDJとして邦楽ロック/ポップスの名曲たちをプレイして場を温める。彼の呼び込みから登場したのは、“根暗ポップチューンバンド”を標榜する、京都出身の3人組・POOLSだ。1曲目の「wave」は淡々としたリズムと反復するベースの上に平熱のボーカルと女声コーラスを乗せた、浮遊感のあるミドルナンバー。インディバンドと聞いて連想しがちなガムシャラで一本調子なスタイルとは一線を画すことを一発で知らしめる立ち上がりだ。続く「サークル」は冒頭からハイトーンのギターが踊る人懐っこく軽快なポップス。みきりょうへい(Vo/Gt)の呼びかけに反応して、場内からはクラップや歌声が起きる。
最新曲「Heck」ではダンサブルなシーケンスやラップも交えながらプレイ。オーディエンスを巻き込んだスケールの大きなコーラス、爽快なギターソロも飛び出したのは「Luv(2u)」。曲によってはギターロック然とした構成もあるものの、バンドサウンドの枠に固執することはない自由度の高い構築から、色とりどりの音世界を見せていくのがPOOLS流だ。曲中で積極的にアジテートする以外はMC等に時間を割かず、ハイテンポの4つ打ちダンスロック「daradara」までの8曲を持ち時間にギュッと詰め込んで、バンドの存在と個性を存分にアピールするライブであった。
フロアからの手拍子と共にじわじわと熱を帯びていくオープニングSEの中、4ピースのバンド編成で登場したのは藤巻亮太だ。粒立ちの良さと厚みを両立したアンサンブルで奏で始めたのは「電話」のイントロ。かつて彼自身がレミオロメンとしてインディからメジャーへと歩み出した最初のシングル曲の、ゆったりめのリズムに乗せた切なくエモーショナルなメロディが場内に染み入っていく。続くのはエネルギッシュなロックナンバー「ハロー流星群」。赤く染まったフロアをミラーボールの光が巡り、サビでは一斉に手が上がる。
「インディーズがキーワードということで自分の20代の頃とか思い出すんですけど、まだ何者でもなくて。早く何かになりたくて、俺はこれなんだって宣言できるようなものが欲しいと悩んだりしながらやってました。でもあの時の気持ちってずっと大事というか。今日はそんな気持ちを呼び覚ましながら、燃え盛らせながら、みなさんに楽しんでいただけたらと思います」
そんなふうに心境を語った後は、メランコリックな美メロを持つ「傘クラゲ」を丁寧に歌い届け、決して定番とはいえない選曲にフロアからは喜びの声が湧き上がった。同時期に生まれた代表曲「粉雪」に繋いだあとは、和やかなメンバー紹介等を挟んでの「南風」で会場全体が弾む。衝動的なロックサウンドと大きな包容力、力強いポジティヴィティを併せ持った「朝焼けの向こう」、疾走感満点のサウンドで攻め立てる「儚く脆いもの」とソロの近作を並べてライブは最高潮に。ラストは藤巻自身が「まだ何者でもなかった」時期に生み出した大名曲「3月9日」をしっとりと、しかし確かな熱を込めて歌い上げたのだった。
月が変わり7月16日(水)、まずは初日同様に別府由来のDJタイム。そして一組目に登場したインディーズ代表はヨイズ。「インディーズ×メジャー」と聞くと「若手×先輩」の図式を想像しがちなのだが、ヨイズのフロントマン・佐藤リョウスケはかつて組んでいたバンド・赤色のグリッターでの活動からカウントすれば、対バン相手のSHE’Sとは世代やキャリアの長さがほぼ同じ。一言にインディーズ×メジャーといってもこういう組み合わせも有るのだから面白い。
オープニングSEに合わせたクラップが和やかなムードを産んだのも束の間、「愛のパラシュート」でいきなりシャープかつ爆音のバンドサウンドを放つ。5限ベースのぶっとい低音と佐藤のハイトーンボイスの対比も鮮やかだ。「魅惑のGIRL」はミドルテンポのダンスポップだが、こういう曲調のわりにはギターが全面に出たバンドらしいアレンジが、ヨイズの個性を言外に伝えてくれる。
「Flash!!」では冗談を飛ばしつつコール&レスポンスをレクチャーして、初見多めのフロアにも積極的にアプローチ。積み重ねてきた場数と地力を感じさせると同時に、ベースのスラップなどファンキーな要素とロック然としたキメなど演奏面の見どころも充分だ。ちょっとレトロな歌謡テイストと現代ポップスらしいギミックを併せ持った「smoke」に続いては、かつて赤色のグリッターとしてSHE’Sと対バンした経験を明かし、「またこうしてできたことが何より嬉しいです」と佐藤。「もっと観てほしいし聴いてほしいし、もっと表現したいことがあって。今日がそのきっかけになれば」と率直な想いを口にした後、“ヨイズの始まりのナンバー”との紹介から「ともしび」を情感込めた演奏で届けていった。
後攻のSHE’Sは「Cloud 9」からスタート。打ち込み+シンセベースによって立ち上がったクールな音像へ井上竜馬(Vo/Key)が凛とした歌声を乗せ、サビでパッと花開く瑞々しいバンドサウンドが爽快だ。「SHE’Sです、よろしく!!」と両手を広げて叫ぶ井上にフロアから歓喜の声が上がる。ダンサブルな音とフロア参加型のコーラスを有する「追い風」に、スパニッシュ調のノリで揺らす「Masquerade」、ややダークでジャジーな装いの「Ugly」と、冒頭のブロックから見せつけた音楽性の幅で感じたのは、かつての「洋楽テイストを持つピアノロックバンド」という印象だけでは到底語りきることのできない奥深さ。来年でメジャーデビュー10周年となるバンドが身につけてきた地力の証明だ。
「メジャーもインディーも関係なく音楽を楽しめたら、それだけで最高なんですよ」とイベントの核心に触れる井上のMCに続いては、ゴスペルフィーリングの「If」をフロアから送られるクラップとともに披露。井上がレスポールギターを弾く爽快なロックチューン「Kick Out」あたりで、フロアのボルテージも一段と高まっていく。その後のMCでは、アマチュア時代の仲間はもうほとんどバンドを続けていない今、ヨイズ・佐藤との久々の再会と対バンが実現したことを「音楽人生冥利に尽きる」と表現。当たり前だが、それはSHE’S自体が止まらずに走り続けてきたからでもあるわけで、だからこそ彼ら自身のことが歌われた「Four」がひときわ感慨深く、祝福感たっぷりに響いたのだった。
終盤のハイライトは、ハイテンポなダンスチューン「Raided」から「Grow Old With Me」へと繋いだ流れ。曲調の振り幅こそ大きいけれど、彼らのライブにはいつもあたたかでナチュラルな一体感がある。そんな空気は最後まで変わることなく、静から動へとドラマチックへ展開していくバラード「Amulet」でライブを終えた。終演後は別府の呼び込みで2バンドが全員集合して記念撮影。「アーティストとオーディエンスが一緒に音楽を楽しみ、お互いを讃え合って、明日への活力に繋げてほしい」というイベントの主旨そのままの、笑顔あふれる光景がそこにはあった。
取材・文=風間大洋
なお、本ライブのダイジェストムービーも公開されているので以下よりチェックを。
セットリスト
【DAY 1】
■POOLS
1. wave
2. サークル
3. short
4. Heck
5. KICK-ASS
6. Luv(2u)
7. effect!
8. daradara
■藤巻亮太
1. 電話
2. ハロー流星群
3. オオカミ青年
4. 傘クラゲ
5. 粉雪
6. 南風
7. 朝焼けの向こう
8. 儚く脆いもの
9. 雨上がり
10. 3月9日
【DAY 2】
■ヨイズ
1. 愛のパラシュート
2. 魅惑のGIRL
3. 愛たくて
4. Flash!!
5. DARLiNG
6. smoke
7. ともしび
■SHE’S
1. Cloud 9
2. 追い風
3. Masquerade
4. Ugly
5. If
6. Letter
7. Crescent Moon
8. Kick Out
9. Four
10. Raided
11. Grow Old With Me
12. Dance With Me
13. Amulet