『中津川ソーラーは』本当に子ども連れにオススメなのか? 実際に3歳娘と参加してみた
2023.10.06
今年も、愛してやまない『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2023』に行ってきた。収容人員や楽しみ方に制限のない開催は実に4年ぶり。会場の様子を見て回っても、各ステージで行われるライブの光景を前にしても、昨年以上に「戻ってきた」「これこれ!」という感慨を味わえたことを最初に記しておきたい。しかしながら、2016年以降毎年この総括レポートを書いてきた筆者に関しては、これまでとは結構違う動きをすることになったのであった。
というのも今夏、立ち上げから編集を務めこのレポも寄稿してきたメディア「SPICE」から離れて完全なフリーランスという立場になった結果、このフェスにおける立ち位置が「身内面」から「半分身内」に進化を果たし、開催中の公式インスタを動かしたり、広報用の写真を撮って回ったりというミッションを仰せつかったのである。「一応仕事」から「ほぼ仕事」へ。ということで、これまでのように好き勝手飲み歩いて思いつくままライブを観る、というムーブはできない。かと言って、裏側で僕がどう動いていたのか?を記事にしたところで、何のこっちゃわからないだろう。さて、どうしたものか。
このフェスに通い始めて8年。8年前と今とでは誰しも何かしらの変化があるはずだし、コロナ以前の4年前と比較してもそうだろう。少なくともみんな4歳年をとったわけだから、ライブ現場が元に戻ったからといって、それぞれの生活とか価値観、体力的なものなんかまでみんな当時のまま、とはいかないわけで。たとえば2020年に僕は父親という立場になった。まあ、僕の場合は仕事がこれなので今まで通りライブにもフェスにも行くのだが、そういう特殊ケースでもない限り、子どもができたらライブやフェスから足が遠のいてしまうケースが多いのではなかろうか。かつてこの『中津川ソーラー』に毎年来ていた人の中にも、そういう理由でこのところ参加を見送っている層もいると思う。だとすれば。
この『中津川ソーラー』は人口密度が高すぎず、足場も良く、何より「こどもソーラーブドウカン」という子どもたちが主役の遊び場・体験エリアにもかなり本腰を入れているフェスである。なんなら「太陽光でフェスをやる」のと同レベルで「未来の音楽シーンを担う子どもたちへ向けて」という部分に本腰を入れていると思う。子ども連れ・ファミリー参加に対するホスピタリティに溢れているのは、当事者になる以前から感じていた。だったら、そこのところを我が家が身をもって体験した上で、「このフェスは本当に子ども連れにオススメなのか?」を検証してみるというのはどうだろう。早速、「半分身内」の立場を生かして中枢部に打診してみたところ、二つ返事でOKをいただけたので、9月23日早朝、妻と娘を引き連れて都内の自宅を出発した。
【スペック】
娘:3歳(学年的には4歳世代)。歌と踊りは好き。フェスに出ているアーティストは当然知らない。
妻:音楽は好きだけど熱心ではない。近年の曲はサブスクのチャート上位くらいしか知らない。
『中津川ソーラー』参加者の多くは県内、もしくは名古屋圏にお住まいだと思うので、こんなに遠くから子ども連れで来るのは少数派かもしれないけれど、参考までに。新宿まで15〜20分の自宅からかかった時間は、私鉄→JR→新幹線→特急しなのを乗り継いで、中津川駅到着まで約4時間。乗り換えに余裕を持たせたのもあって、結構かかった。
子どもの体力温存と飽き対策も考えると、
ポイント①使える区間は惜しみなくタクシーも使う
ポイント②新幹線で寝るように起床や食事の時間を調整
といったところが重要だろう。
なんとか思惑通りに事は運び、開場してちょっとしたくらいに到着。やはり単独で行くときより疲れるは疲れる。長距離運転が苦にならない方は、早めに駐車場を確保しておいて車参加でも良いかもしれない。ただ、土曜だったことと行楽日和だったこともあってか、高速はいろんなポイントで渋滞していたようだし、会場近辺でも中津川ICあたりはかなり流れが悪かった。過去開催時にも土曜は混んだ記憶があるので、いずれの交通手段でもある程度混むつもりで段取りした方がよさそう。
そんなこんなで開演時刻。当初の予定では「最初くらいはライブを観ておこう」ということで、僕が各所挨拶や仕事の準備を終えたらHY(夫婦共に世代である)のライブで合流して、ひとしきり観てから「こどもソーラーブドウカン」へ連れて行こうと思っていた。しかし、1曲目の「AM11:00」が始まっても全然見当たらない。あとで聞いたところ、運営スタッフの娘さん(小学校低学年)が我が子の案内役を買って出てくれて、そのまま子ども目線でオススメのエリア──つまり遊具やショップがある辺りを巡ったあと、早速「こどもソーラーブドウカン」に行くことになったとのこと。……妻はHY、1曲しか観れなかったそうです。すまない。
「こどもソーラーブドウカン」の最初のコンテンツは、昼前から始まった「うじキング」こと、うじきつよしとパーカッショニスト・辻コースケとともに楽器を演奏してエリア内を練り歩くことのできる、こどもパレード。さすがに3歳児にはギターやパーカッションは早いけれど、隣接するバランスボール体操コーナーから一球拝借(すみません)して娘もパレードには参加できた。人生で初めて絡むであろう王様に率られ、<世界を変えるのさ♪>と歌いながら歩く。けっこう楽しそうだ。そのうち教えるけど、その王様、すごい人なんだぜ。
余談だが、僕が初めて絡んだ王様は、王様(ハードロックを直訳日本語で歌うあの方)でした(地元のギター教室のイベントに呼ばれていた)。
「こどもソーラーブドウカン」内「太陽のステージ」では、他にも様々なライブや体験教室が行われる。ちなみにその音響や照明は、TOYOTAとHONDAが開発した移動式発電・給電システム「Moving e」を使用しており、ちょっと未来感ある見た目の水素バスなので、子どもたちも興味津々。『中津川ソーラー』といえば太陽光だが、新たに開発された再生可能エネルギーの導入・取り組みも進めているようだ。そんな「太陽のステージ」で行われる各催しを、ちゃんと楽しめるようになるのは5歳くらいからかな?という印象(年齢制限のあるものも)だったが、それ以外にも同エリアには色々なコンテンツが常時用意されている。我が娘が体験したのはプラカップにペイントして作るマラカスや、風船とガムテープのボール作り、キッズドラムの試奏、ボルダリング体験などなど。よつ葉乳業のキャラクター「みるる」や楽器の弾ける緑色のクマでお馴染み「ゼロノミクマ」が現れたときにはさらにテンションアップ。そして最も楽しんでいたのは……滑り台! 「こどもソーラーブドウカン」エリア内にある低年齢向けのものも、RESPECTステージ付近にあるローラー滑り台もおかわりしまくりで大満喫。
しかし娘よ、それは元々この公園にあるやつなんだぜ。
会場には収容人員に対して充分な数のフード出店がされているため、店によっては並ぶとはいえ食事の確保に困る事はないし、かき氷など子どもに嬉しいメニューもちゃんとある。トイレに関しては仮説以外に場内にある建物のトイレが使え、子ども連れ専用のトイレも分けられているのが嬉しい。ただし今年、特に初日はそこがかなり混み合ってしまっていた。子どものトイレタイムは急に訪れる&ギリギリになってから判明しがちなので、そこはこまめにチェック&早めの行動をしたほうが良いだろう。トイレの混雑はスタッフ内でも課題として認識され、リアルタイムでも対応に動いていたから、来年以降はなんらかの対策・改善に動くと思う。
あと、低年齢層がフェスを乗り切るための必須事項、お昼寝については、トイレと同じ建物内にかなり広い休憩スペースが設けられているので、そこで雑魚寝スタイルで横になれるほか、観覧スペース後方のシートエリアを確保できれば、芝生でゴロンも可能だ。タープテントとキャンピングチェア置かれた有料シートエリアも存在するので、そこを予約しておけばかなり快適に寝られると思う。
途中でもっと飽きるかと思ったが、娘はちゃんと楽しみ続け、気づけば時刻は夕方に。ここで家族揃って観たのはROCKIN’ QUARTETのライブだ。座って観るのにも適していて、暗くなるとライトアップも綺麗なRESPECTステージで、しかもピアノとストリングスのみのアンプラグドの演奏だから耳にも優しい。ついでに我が家の場合「パパと一緒に釣りをしている人」が出ている。
(参照:https://www.youtube.com/channel/UCXzaswv0uCB_1XsjsNWnEGQ)
結果的にこれが、初日に唯一妻がまともに観られたライブとなった。もっと小さければおんぶや抱っこで連れ回せるし、もっと大きければライブ自体に興味も出そうだが、3〜4歳児だとどうしても「こどもソーラーブドウカン」や遊具エリアで遊びたいケースが多そうである。なので、両親+子どもで参加の場合には、観るライブを厳選した上でどちらかがライブを諦めて子どもに付き合い、交代で観たいものを数本ずつ観られれば御の字、くらいの覚悟をしておいたほうが良さそうだ。我が家の場合、妻がそこまで熱心な音楽リスナーではないため助かったが、普通はどちらか片方が全然ライブを観られない展開になると不穏な空気もやむなしだろう。あれだ、ディ◯ニーとかで乗り物にあまり乗らなくても場の雰囲気で楽しめる、みたいな。ああいうモードで臨みましょう。
2日目も朝から参加。朝イチのRevolutionステージ、Nothing’s Carved In Stoneのライブを、後方で駆け回ったりしつつもほぼフルで観たあと、再びこどもパレードへ参加。子どもの適応力は大したもので、前日よりノリノリでパレードに加わって練り歩き、歌う娘。すっかりホーム感も出てきたらしく、その後も我が物顔で場内をうろつきながら遊びたいように遊び、いつの間にかスタッフか出演者かわからないが誰かの娘さんと仲良くなったりもしつつ、とにかく大満喫してくれた。妻が翌日仕事のため、15:00頃に帰京となったのだが、帰りたくなくて泣くぐらいには『中津川ソーラー』を楽しんでくれたようだ。
帰ってから「何が一番楽しかったか」を聞いたところ、選ばれたのは「滑り台」でした。
そんなこんなで、全日程の7割くらいをスタッフ側のお手伝い&娘の様子の観察と撮影に費やしたため、今年は例年より全然ライブを観られなかった。一応、フルでないものも含めると観たライブは、
【1日目】
HY→Caravan→打首獄門同好会→androp→韻シスト→ROCKIN’ QUARTET→Rei
【2日目】
Nothing’s Carved In Stone→ACIDMAN→木村カエラ→吉川晃司→NONA REEVES→奥田民生 Solar Session→ストレイテナー
といった感じだった。詳細についてはBARKSで公開中のオフィシャルクイックレポに譲りつつ、所感もちょっと書いておく。総評としてはやっぱり人がたくさん入って歓声が上がる光景は最高だった。ライブは演者と観客の両方で作り上げていくものだとよく言われるが、本当にその通りだ。2019年以前と、2020&2021年の配信現場と、昨年の制限付き開催、全てを観てきた立場だから余計によくわかる。オーディエンスの表情や投げかける歓声を受けてアーティストがみせるパフォーマンス、発言、ちょっとした表情や仕草。あらゆる要素が、その場でしか生まれないライブ感を創出しブーストさせていく。心理的に枷がないことで、このフェス特有の開放感をより感じられる気もした。
個人的ハイライトは、奥田民生が少年時代の憧れ・うじきつよしと一緒にこどもバンドをカバーしたり、仲井戸”CHABO”麗市の帰還を願いながらの「雨あがりの夜空に」、木村カエラがメインボーカルでのユニコーン「大迷惑」など見どころしかなかった奥田民生 Solar Sessionから、25周年のアニバーサリーイヤーに初の大トリを務めたストレイテナーへと至る、2日目Revolutionステージのフィナーレ。脈々と続いてきたロックの歴史とストーリーの上に生まれた、その瞬間の奇跡。ロックフェスって、『中津川ソーラー』って最高だ。
3歳児あるあるだろうか、日々「え、それもう忘れちゃったの?」と「なんでそんなこと覚えてるの?」を織り交ぜ驚かせてくる我が娘だが、家に帰ってきてからも<世界を変えるのさ♪>を口ずさんだりしているあたり、『中津川ソーラー』初参加は、楽しかった日としてちゃんと記憶に刻まれたみたい。ロックフェスに参加したんだということを理解したり、そこで行われるライブの興奮を味わうのはまだまだ先の話になりそうだが、初秋の青空のもと遊び回ったり、生の音楽を浴び続けたり、普段はなかなか出会わないタイプのパンチの効いた大人たちと触れ合った経験が、成長過程において何かしらの形で、視野を広げたりとか、発想の自由さなんかに繋がっていったらいいなあ。
こうして振り返ってみても、子どもを連れていることで不自由を感じる事はほとんどなく、何より本人もしっかり楽しめたようだから、やはり『中津川ソーラー』は子どもやファミリーに優しいフェスであった。これからもできるだけ連れて行きたいし、いつの日か娘にお目当てのアーティストができて、僕が連れ回されるようになる日を楽しみにしている。
文=風間大洋 撮影=風間大洋、柴田恵理(奥田民生 Solar Session、ストレイテナー)